作品解説⑥「Silkー62」byオノサト・トシノブ
こんばんは!
本日は一日の終わりに、もう1作品ご紹介したいと思います。
ご覧の通り、この作品は幾何学模様で構成されています。
画の中にはどのような模様が見えますか?
やはり、最も目立つのは円でしょうか。
この作品にはたくさんの円が描かれていますが、これに限らず、作者のオノサトは他の作品においても数多くの円を積極的に描きました。
ところで、「円」と一口に言っても、その方法は生涯変化していきました。
この作品が制作された当時、オノサトは作品発表の場を失うなど、作家として不遇時代にありました。
しかし、彼はそれでもなお創作を続けていました。
その結果生まれた、円と細かな格子の複雑な組合せに奇抜な彩色という、この独創的な表現は、オノサトの変わらぬ創作への熱意と試行の跡を感じさせます。
さて、これが本展覧会の最後の出品作品。ここで作品紹介は一区切りとなります。
ですがブロブの更新はまだまだ続きますので、楽しみにお待ちください!
オノサト・トシノブ(1921-1986)
日本の抽象画家であり、「小コレクター運動」の中心となった久保貞次郎とも親交があった人物。
従軍、シベリア抑留により作家活動の中断を余儀なくされるも、戦後も作品を作り続けた。モザイク状の幾何学的抽象様式の作品が知られており、その作品群は日本国内だけでなく、海外の美術館、展覧会でも高い評価を受けている。
文責:K.I.
作品解説⑤ 「遙かなる女」 by 池田満寿夫
こんにちは。
冬真っ盛りの1月は、上着を着ていても外は凍えるほど寒いですね。今回は印象的なコートがモチーフの作品をご紹介します。
この作品は赤いストライプのコートが眼にも鮮やかですが、肝心のコートを身につけている人物が透明人間のようにはっきりとは分からなくなっています。ですが、「遙かなる女」という題名や作品の左上に「WOMAN(女性)」の文字があることから、描かれている人物は女性であることが推察できます。
池田は、「遙かなる女」が制作された当時、他にも赤いストライプのコートを着た人物をモチーフにした作品を数点制作しています。これらの作品は全て「遙かなる女」と同様に人物の顔が描かれていません。
自身の芸術家人生を通して女性に焦点を当てて描いてきた池田ですが、なぜこの作品では敢えて女性そのものを描かなかったのか、眺めるほどに謎の深まる作品ですね。
池田満寿夫(1934ー1977)
池田満寿夫は本職の版画のみならず、彫刻や陶芸、文学、映画など多彩な創作活動を展開した芸術家で、各分野で多数の賞を受賞しました。官能的な作風が特徴で、女性を題材とした作品を数多く残しています。
文責:M.H
作品解説④「朝霧はつめたい」by吉原英雄
おはようございます。
1月特有の寒さと厳しい天候が続く今日この頃、
朝お布団から起きるのがとても億劫な時期ですね。
そんな今こそ、
今回紹介する吉原英雄の作品「朝霧はつめたい」を鑑賞して、
頭をシャキッとさせてみるのはいかがでしょうか。
鮮やかな青と、存在感のある見事な脚。
色彩や構図、あらゆる面で目を引く作品です。
「朝霧」は文字どおり朝にかかる霧のことで、秋の季語とされています。
皆さんはこの作品に「朝霧」を感じ取りましたか?
吉原英雄といえば「シーソーI」が傑作として有名な芸術家ですが、
この「朝霧はつめたい」は、
そんな「シーソーI」を彷彿とさせる強烈な青色と脚が強調された作品です。
リトグラフ「朝霧はつめたい」が描かれたのは1969年であり、
連作として
「赤い雲のブランコ」「刈り取られた芝生」(ともに1969年、リトグラフ)があります。
吉原が脚のモチーフを好んでいたことは有名ですが、
「朝霧はつめたい」「シーソーI」、そしてこれら他作品を見れば、
吉原が青色を得意とする芸術家であったことも推測されます。
「朝霧はつめたい」以外にも、
吉原英雄の作品が沢山公開されています。
ご興味を持たれたら、ぜひ見に行ってみてください。
吉原英雄 よしはら・ひでお
(1931-2007)
広島県出身。
上田晃や親戚の吉原治良に弟子入りし絵を描き始め、
泉茂の影響を受けリトグラフ制作を始める。
当時としては偉業である国際美術展入選を多数経験。
鮮烈な色遣いのポップアート作品が有名であるが、1978年から晩年にかけてはモノクローム作品を主に制作していた。*1
文責: S.I
作品解説③ 「日仏会館ポスター」by靉嘔
こんにちは。
なんだか,またお家時間が増えていきそうですね。
そんなお家時間の中で,ぜひ作品鑑賞を楽しんでみてください。
さて,今回紹介する作品は,虹のアーティスト・靉嘔の描いた日仏会館のポスターです。
この作品を見たとき,一番に目に飛び込んでくるのはやはり「虹」ではないでしょうか。
鮮やかな虹色は目を惹きますよね。
ご覧の皆さんも感じている通り,靉嘔の作品からは,鮮烈な「虹」が迫ってきます。
線を描かず,引用したモチーフに可視光線(スペクトル)を重ねることで,彼は「虹のアーティスト」たる独創性を生み出したのです。
「線は無限を貫いて旅するが,色彩はそれ自体が無限である。色彩を通じて私は宇宙との全面的な一致を体験する。その時私は真に自由である。」
そう靉嘔は語ります。
色彩に自然,すなわち,宇宙の根源,無限性を見出した靉嘔。
彼の虹の作品を,どうぞお楽しみください。
靉嘔(あいおう)
1931年茨城県生まれ。1966年にヴェネチア・ビエンナーレでの発表を経て,「虹のアーティスト」として国内外で知られるようになった。積極的な活動を行う一方で,創美教育や小コレクター運動にも協力した。
文責:M.Ak
作品解説② 「南国の花」by北川民次
ステイホームもあいまってか、この正月は近所の公園から子供の声が多く聞こえてきました。とてもほほえましいですね。
さて、今回紹介するのはそんな温かい家族の風景を多く描いた画家、北川民次さんの作品「南国の花」です。
「家族と花の画家」として晩年知られるようになった北川民次は、戦後「反戦」のメッセージを掲げて活動を続けました。
当時の美術雑誌『みづゑ』に登場したこの作品。
画面いっぱいに力強く咲き誇る花々は、彼が人々に伝えたかった生命の尊さの象徴かもしれません。
北川民次(1894-1989)
北川民次は油絵,版画など様々な技巧の作品を有する画家であり、もとはニューヨークやメキシコなど、海外で活動をしていました。1936年に帰国後、二科展に作品を出展したのが日本での活動の始まりで、瑛久らとともに小コレクター運動に携わった人物としても知られています。
文責:M.A
作品解説① 「指」by 瑛九
あけましておめでとうございます。
今回から、展示作品についてそれぞれの担当者が解説をしていきます。
トップバッターは 瑛九「指」 です。
様々な手法を用いて不思議な世界を表現した瑛九。彼は1956年からリトグラフに熱中し,2年間で150点余りの作品を制作しました。「指」にはシュルレアリスムを意識した不思議な世界観が広がります。右下に描かれた自転車は彼の様々な作品に登場します。
瑛九(えいきゅう)(1911-1960)
宮崎県生まれ。フォト・デッサン、エッチング、リトグラフ、油彩制作など多彩な分野で独自の表現を追求した。また自由美術家協会創立に参加するなど、新しい美術運動の展開に貢献した。彼の前衛的な作風は靉嘔や池田満寿夫など後世の画家たちに影響を与えている。
文:M.I